〇悠久の味(1999年05月27日)
「砂漠の幸を味わってください」。モンゴル研究者の滋賀県立大学教授、小貫雅男さんが珍味「フムール」を持参してくれた。ニラの香りに似ているものの、ピリッとして味は濃厚だ。「スープの隠し味としてちょっと入れると、モンゴルの香りを楽しめますよ」
これは、ゴビ砂漠だけに生えるユリ科セッカヤマネギという草。夏から秋にかけて砂漠の一面に紫色の花を咲かせ、地元の人たちは冬支度を兼ねて一斉に摘む。それを細かく刻み、砂漠の岩塩で作り上げたもので、骨付き羊肉につけると一段とおいしく、遊牧民の食生活に彩りを添える。
ふと、小学生のころに見たウォルト・ディズニーの映画「砂漠は生きている」を思い出した。雨が降らなくなれば花は枯れる。虫はトカゲに食べられ、トカゲは鳥に食べられ、いずれはみんな死んでいく。みんないろんな生き方、死に方をするけれど、あとには砂漠だけが残る。本当に生きているのは砂漠だけ、という内容だった。
太陽をさんさんと浴び、砂地の中から養分を集めて芽生えた「フムール」は、“いのちのエキス”なのかもしれない。都会の砂漠での単身赴任生活で、コンビニ頼りの食事をしているせいか、その風味に触れているうちに、ほんの少しだけ悠久の流れに浸っているような気がしてきた。