1996年9月11日水曜日

〇砂の音(1996年09月11日)

 〇砂の音(1996年09月11日)

 

「サッ、サッ、サッ……」。その小さなタイ焼きのような土器を揺らすと、素朴な音がする。陶魚形響器。2片の泥板を接合して、真ん中が空っぽの魚形をつくり、その中に粗い砂を入れ、高温で焼いた土製マラカスだ。

 この響器は、2000年前、中国南部に栄えた南越国の王墓から見つかった。その複製品は京都文化博物館で開催中の「中国・南越王の至宝展」(23日まで)会場の土産物としてけっこう人気がある。王のそばでは楽士が殉死していたが、この響器は古代王朝の舞楽の光景を今によみがえらせてくれる。

 ふと、小学校のころに見たウォルト・ディズニーの映画「砂漠は生きている」を思い出した。雨が降らなくなれば花は枯れる。虫はトカゲに食べられ、トカゲは鳥に食べられ、いずれはみんな死んでいく。みんないろんな生き方、死に方をするけれど、あとには砂漠だけが残る。本当に生きているのは砂漠だけ、という内容だった。

 土と砂でできた響器。「これを持ち続ければ、数千年後に宝になりますよ」と中国の学芸員が語っていたが、この砂の音だけは永遠に生き続ける。その音を楽しみ、ほんの少し悠久の流れに浸った気がした。