2005年5月9日月曜日

〇女神(2005年05月09日)

 〇女神(2005年05月09日) 

 

 どうして絵を買おうという気になったのだろうか。これまでたくさんの展覧会に通ったが、絵を買うのは初めてだ。

 大型連休中、大阪市西区で開かれた神戸の画家、石井一男さんの展覧会「女神たち」。会場の天音堂ギャラリーはマンション6階の一室だ。靴を脱いで上がり、居間のような空間で、じっくりと絵に向き合ったせいだろうか。

 石井さんは寡黙で、暮らしぶりは質素だ。92年秋、49歳で開いた最初の個展では「絵を見てもらえるだけでうれしい」と売れた分をそっくり寄付しようとしたほどだ。当初、絵に署名を入れず、世に埋もれるのを当然視していたこの画家の思いにも胸を突かれた。

 なぜか不思議な巡りあわせも感じた。石井さんの父はフィリピンで戦死。天音堂の山口平明さんの父は毎日新聞記者で、広島支局で原爆にあって死んだ。戦後60年、つつましく暮らしてきた2人の遺児を女神の絵が結びつけた。

 黄金週間が終わり、手元に1枚の絵が残った。その野仏のような女神像を見ていると、うれしくてたまらなくなった。