2002年8月31日土曜日

西論風発:医療不信 患者図書館を普及させよう

 〇掲載年月日 2002年08月31日 

 西論風発:医療不信 患者図書館を普及させよう=池田知隆・論説委員 

  

  日本社会のいたるところでモラルハザード(倫理観の欠如)が表面化しているが、医療機関も例外ではない。東京女子医大の事件では、亡くなった患者の遺族側が手術に疑問をもったことを知るや、大学病院側がカルテを改ざんした。「やはり」というか、「いまだに」というべきか、医療界には特権意識が根強くはびこっている。

 カルテの開示、がんの告知、インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)など、自らの病気について患者の「知る権利」が叫ばれて久しい。高度化していく医療について“情報弱者”になりがちな患者にどこまで情報提供ができるのか。それこそが医師と患者の信頼を築いていく上での前提になる。

 そのことを考えるうえで一つの参考になるのが、「病院患者図書館」の動きだ。

 関西では、京都南病院(京都市下京区)の患者図書館活動が知られている。病院内の図書室が患者や地域住民に開放され、全国に先駆けて1997年に患者にも医学書を公開した。「どんな病気で、どんな治療法があるのだろうか」。自分や家族の病気を詳しく調べたいという患者の願いに応えるためだ。

 図書室には、一般書など約2万冊のほか医学書約1万冊がある。さらに必要なものは公共図書館、大学医学図書館から取り寄せている。「同じ病名でも病状や治療方法は一人一人違う。その点を十分に理解してもらいながら情報提供している」と司書、山室真知子さんは語る。

 専門的な医学書を公開しているのは現在、国立長野病院(長野県)、東京大学付属病院や健康保険組合連合会大阪中央病院など約10カ所を数える。

 医療法では、総合病院に図書室を設けることが義務づけられている。だが、多くは医師の詰める医局に付属し、患者は専門書や医学雑誌を閲覧できない。

 一方で、患者が病気や治療法について別の医師に意見を聞く「セカンド・オピニオン」への関心が高まるばかりだ。書物からの情報も、患者が治療法を自己決定するためのオピニオンの一つとして位置づけられる。

 どの病院も経営が厳しく、実際に患者図書館を設けるには多くの課題があるだろう。しかし、これからの時代には患者サービスを、医療の質を患者本位に改善していかないと、病院も生き残るのは難しい。

 医療情報の提供をめぐって医師はまず、患者に寄り添うように接してもらいたい。大学病院などの大きな医療施設では、患者図書館の開設に率先して取り組んでほしい。