2003年6月21日土曜日

西論風発:辻元講師問題 大学は説明責任を怠るな

 〇掲載年月日 2003年06月21日 

 西論風発:辻元講師問題 大学は説明責任を怠るな=池田知隆・論説委員 

  

  大阪市立大は、社会人向け大学院「創造都市研究科」のゲストスピーカーとして一度内定した辻元清美・元衆院議員の起用を見送った。学内で約半年間、論議を重ねて「結論が出せない」というのだ。当初、「学問の自由」にかかわる問題と受け止めていながら、「時間切れ」で棚上げにするのは、あまりにも無責任な決着ではないか。

 同研究科は、都市を活性化する多彩な人材を養成するために今年4月に開設された。社会で実際に直面する難題について幅広い視野から学ぼうと現在、第1期生166人が学んでいる。

 辻元さんを招いたのは、NPO(非営利組織)などの社会的リーダーを育成する「都市共生社会研究分野」の担当者だ。ピースボートを設立したり、NPO法の成立に深くかかわった経験や、現場サイドの具体的な課題などを提示してもらい、論議するためだ。ゲストスピーカーとして6月24日に1回、事例報告と討論を依頼した。

 ところが、昨年11月にそのことが報じられるや、「(秘書給与流用の)疑惑のある人物をなぜ大学に呼ぶのか」と市議会で自民党議員が質問し、大学にも抗議電話があった。

 大学は、「学問の自由」の問題もあり、特別委員会などで検討してきた。だが、「結論がでるまで辻元氏の招聘(しょうへい)は行わない」と決め、結局、その結論を先送りにした。

 先日の「西論風発」(3月1日付)で指摘したように、憲法第23条の「学問の自由」は、大学だけでなく、その構成員にも保証されている。担当分野の研究者が依頼した講師に対して、大学機関がそれを取り消すには明確な根拠が必要なはずだ。なぜ委員会としての見解を示せないのか、納得できない。

 昨年末の臨時評議会では、辻元さんを招くことに法学部教授たちが率先して消極的意たという。来春開設の「ロースクール」(法科大学院)に向けて、市議会側の機嫌を損ねたくないとの打算が働いた、との見方も学内にある。

 そうだとすれば、実に寂しい話ではないか。学生は大学教育の消費者で、教員も教育サービス産業従業員となり、今や「学問の自由」を語る時代ではないのだろうか。

 同研究科が、都市活性化に向けた知的拠点であるならば、社会への説明責任を積極的に果たさなくてはならない。「時間切れで棚上げ」は現実の経済活動ではまず許されないことだ。

 大学は、多くの失敗の経験から学ぶために、多様な人に広く門を開くべきだと改めて思う。