1997年11月18日火曜日

〇血と骨(1997年11月18日)

 〇血と骨(1997年11月18日) 

 

 筑豊の記録作家、上野英信さんが亡くなってこの21日で10年を迎える。その後、産炭地の文化拠点、筑豊文庫を守っていた妻の晴子さんも今夏亡くなり、春には三井三池炭鉱が124年の歴史を閉じた。炭鉱の姿は日々遠のく。

 「あなたの故郷・三池で炭住(炭鉱住宅)の解体も進んでいますよ……」。晴子さんから数年前、手紙をもらい帰郷した。労働争議や事故など時代の荒波を炭鉱マンが「家族ぐるみ」で乗り越えた炭住は朽ちかかっていた。遠く中南米の移民となった炭鉱離職者たちの思いを上野さんはこう書いている。

 「いつもながら胸をうたれるのは、彼らがヤマ(炭鉱)を恋い慕う情念の深さである。生まれ故郷を恋うにもまして、その想(おも)いは哀(かな)しく熱い。彼らにとって、ヤマは単なる職場であったのではない。みずから血と骨をもって掘り築いた<まぼろしの国>であったのだ。その重みを思い知らされて、わたしは慟哭(どうこく)する」

 いま「大不況」の予兆をめぐって世は騒がしい。しかし、血と骨で築くような濃密な職場はいつしか少なくなり、「家族ぐるみ」という言葉も死語と化しつつある。社会は「淡泊」になっているのだろうか。