2006年6月29日木曜日

〇蝸牛(かたつむり)2006年06月29日

  

〇蝸牛(かたつむり)2006年06月29日 

  

 「蝸牛の歩み」と書かれた神戸の画家「石井一男」展の案内状が届いた(7月5日まで、ギャラリー島田=078・262・8058)。昨春、その女神像にひかれ、初めて絵を買ったのが縁だ。

 石井さんのデビュー話は何度聞いても、心を動かされる。古い長屋の2階に隠者のように住み、ひたすら自分を見つめ、絵を描いてきた。絵の中の女神との会話だけが生きる証しとはいえ、いくら描いても見てくれる人はいない。

 「このまま死ぬかもしれない」と必死の思いでギャラリーを訪ねたことで、密室の女神たちが一挙に脚光を浴びた。92年秋、49歳のときだった。「当ててはいけない光を当てたのではないか」と画廊主の島田誠さんは振り返る。

 「自分のことを分かってくれる人がいることで、本当に生きているという実感が持てます」とにこやかに語る石井さん。今も寡黙で質素に暮らす姿を見ると、励まされるようでうれしくなる。

 しかし、新たな世界を切り開くのは多難なことだ。ゆっくりとマイペースで進む「蝸牛の歩み」を静かに見守りたい。