2004年4月18日日曜日

西論風発:医療事故 「密室」処理は許されぬ

 〇掲載年月日 2004年04月18日 

西論風発:医療事故 「密室」処理は許されぬ=論説委員・池田知隆 

 

 「医療ミスによる死にも通報義務がある」――東京都立広尾病院の点滴ミス隠しをめぐって最高裁は13日、たとえ刑事責任が追及される可能性があっても、医師には医療ミスを警察に届け出る義務がある、との判決を出した。

 医師側が「何人も不利益な供述は強要されない」と憲法をたてに争っていたが、医師の社会的な責務を優先させたものだ。通報義務がなければ、「密室」で処理されかねないし、ごく当然の判断ではないか。

 先月、フジ系(関西テレビ)で放送されたドラマ「白い巨塔」(山崎豊子原作)の最終回の視聴率は、関西地区で瞬間最高45・7%を記録し、驚かされた(関東地区の瞬間最高は36・9%、ビデオリサーチ調べ)。

 このドラマの後半の焦点は医療ミスをめぐる裁判だった。医師側が病院ぐるみで記録を改ざんして偽証する一方、病院に逆らって原告側に協力した医師は職を追われていく。入院中の患者が、消灯時間を過ぎても熱心にテレビを見ている、と病院関係者から聞かされた。各地の大病院で医療事故が相次ぐ中、そこに描かれた医学界とその内部の人間模様は今も現実味を帯び、視聴者に迫ってきたようだ。

 東京女子医大の心臓手術ミス事件で東京地裁は先月、同僚の医療ミスを隠すためにカルテ類を改ざんした医師に証拠隠滅で有罪とした。民事訴訟でも病院側のミス隠しが認定されることは珍しくなく、医療現場の閉鎖性を示す事例は後を絶たない。

 ミス隠しはミスよりも重い。ミスは技術的な問題だが、それを隠せば、再発防止を遅らせるだけでなく、医師の人間性にかかわる倫理的な問題となる。ミス隠しは、肉親の死で大きな痛手を受けた遺族の心をさらにメスでえぐる行為だ。

 病院の間では診断技術や治療成績に大きな差が生じ、効率化と医療の質を向上させる改革が求められている。最近、病院で「患者様」という言葉もよく耳にするが、そんなへりくだった姿勢や中身のない応対よりも、治療実績やカルテを公開し、透明性を確保してほしい。それこそが患者の信頼をつなぎ、病院として生き残る道ではないか。