1996年6月10日月曜日

〇夢のあと(1996年06月10日)

 〇夢のあと(1996年06月10日) 


 今月2日、大阪市西成区のカトリック教会でささやかな葬儀が営まれた。賛美歌で送られたのは津崎鉄男さん、64歳。日本各地のユートピアを訪ね回った後の天国への旅立ちだった。

 三重県に本拠をおく共同体「幸福会ヤマギシ会」の初期の会員で、哲学者、鶴見俊輔さんを「村」に案内したり、「日本ユートピア学事始」という共著もある。70年前後の学園紛争の後、若者が押し寄せ、「村」は急激に拡大。そのテンポになじめず、82年に妻と3人の子を抱え、「村」を去った。

 しかし、50歳を超え、難民生活を余儀なくされた。九州の妻の実家にいったん身を寄せたが、妻子と離別。水俣や各地の共同体を訪れたあと西成区に落ち着いた。そこは廃品回収を営む生活共同体で、生活費以上のものは世界の貧しい地域に送っているところだ。

 部屋に残されていた36冊もの日記。それは毎日欠かさず、「花ちゃん、おはよう」で始まっていた。ユートピアとはもともと、どこにもないところという意味だが、彼がその旅の最後に求めたのは、2歳のときに別れた娘の幻だった。日記を預かったものの、今春、高校に進学した花ちゃんにどう話したらいいものか。