〇トラウマ(2005年09月24日)
阪神優勝が目前とはいえ、いまひとつ信じきれない。あのときの光景が今もよみがえるからだ。
1973年10月22日夕、プロ野球セ・リーグの最終試合となった甲子園球場での阪神―巨人戦。それまで阪神は、残る2試合のうち一つの引き分けでも優勝できた。
だが、中日戦に敗れ、その日を迎えた。巨人は、勝って59を決めたいところだ。当時、新聞記者1年生で、わくわくしながら球場の警備本部に詰めていた。
結果は0―9で阪神の完敗。阪神最終打者が三振に倒れるや、「ウォー」とスタンドのあちこちで地鳴りのような声があがった。阪神ファンが金網を乗り越え、グラウンドに乱入してきたのだ。
「あっ、王さん(貞治・現ソフトバンク監督)が襲われている!」。ぼくはオロオロと駆け回りながら、事件を間近に目撃できる記者の仕事の快感に酔った。
鬱屈(うっくつ)と熱狂。暴動取材の貴重な初体験だったが、あの猛虎の叫びはトラウマ(心的外傷)のように残る。阪神優勝が常態化すれば、もうあの悪夢を見ることはなくなるかもしれない。