1999年4月8日木曜日

〇散華のとき(1999年04月08日)

 〇散華のとき(1999年04月08日) 

 

 桜が満開になった3日、一人の社会運動家が世を去った。福岡水平塾を主宰する松永幸治さん、74歳。部落解放運動に生涯をささげ、「運動が素晴らしいのではない。運動を進める人が素晴らしくなければならない」といつも言い続けた人だった。

 かつて海軍志願兵としてフィリピン・レイテ沖海戦に遭遇、乗組員約3000人の船でわずか6人の生き残りの1人になった。「残りの命は世のために」と、戦後は部落解放同盟初代委員長だった故松本治一郎(元衆、参院議員)の秘書を務め、全国を奔走した。

 同和対策事業の特別措置法が実施されて30年。同和地区の生活環境は大きく改善され、格差は是正されてきたものの、逆に「部落問題とは何か」が見えにくくなった。「部落の内と外から互いに越え、人間と人間の関係を考えよう」と松永さんは3年前に塾を開き、昨秋からは双書の刊行も始めた。

 「多彩な塾生に囲まれ、私の夢は今、実現している」。そう語っていたダンディーな松永さんは、美しい死の瞬間を待っていたかのように“散華(さんげ)(戦死)”した。葬儀で「家族を顧みず、運動に没頭した父を憎んできたが、弔辞を聞いて初めて誇りに思えた」と言う遺族の言葉が胸にしみた。これからの桜は、その老闘士の夢を思い起こす花となりそうだ。

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