〇雛祭と刀(1994年3月3日)
昭和十九年三月三日、宝塚新温泉(現・宝塚ファミリーランド)が開場される午前八時半、歌劇ファンの列は宝塚南口駅まで延々と続いていた。ちょうど五十年前の雛祭の日のことだ。
第二次大戦が激烈を極め、三月一日に決戦非常措置令が出され、大都市にある十九の劇場は、向こう一年間、一斉閉鎖を命じられた。東京宝塚劇場は二日、初日を迎えるはずの花組公演から中止。宝塚大劇場も四日限りで幕を閉じることになった。
最後の公演の演目は雪組「翼の決戦」(高木史朗作)。春日野八千代さんが軍刀を手にした戦闘機乗りとして登場。三日は、ファンの願いに応えて急きょ二回公演した、と歌劇団の記録にある。最終日も未明から若い観客が詰めかけ、警官が抜刀して整理にあたるという「不祥事」が起きたそうだ。
「陸の竜宮」に押し寄せた時代の大波。だが、タカラヅカの世界は女性たちの間で脈々と受け継がれ、この四月、八十周年を迎える。男役第一号は第一回公演「ドンブラコ」の桃太郎。桃の中から男役が誕生し、桃の節句とまんざら関係がなくはない。雛祭の今日、少女たちの幸せを願いながら、平和のありがたさをかみしめたい。
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