〇望郷(1994年3月31日)
二十四年前のきょう三十一日、赤軍派の若者九人が日航機をハイジャックした。いわゆる「よど号」事件だ。東京郊外の、間借りしていた時代小説家の部屋を引き払うことになり、別れのあいさつしている最中、テレビのニュース速報が流れた。そのときの衝撃と光景はいまも鮮やかに浮かぶ。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に渡った彼らは「われわれは"あしたのジョー"である」と語っていた。血ヘドを吐くほどにたたきのめされながら、不屈に立ち上がっていく人気劇画の主人公と自らをダブらせていた。
核の問題をめぐって緊迫の度が高まってきた朝鮮半島。今週の「サンデー毎日」には、"ジョー"の一人が"リング"にあがって「『来るなら来い』の空気は募っている」と現地の雰囲気を伝えている。「ハングリーな強国」といわれるその国を知るうえで彼らは日本向けの小さな窓になっている。
その一方、"ジョー"の子は父の母国の大学への進学を希望し、法務省と支援グループの間で、入国資格をめぐる交渉が重ねられているそうだ。新しい世代の望郷。政治的言語が飛び交う中、ごく普通の暮らしを願う人たちの「心情」を垣間見る思いがした。