〇遠い自分(1994年2月3日)
パチ、パチ、パチ……。映画のエンドマークがでるや、館内のあちこちで拍手がわきあがった。にぎやかさはなく、静かな音の波だつた。スクリーンへの拍手を聞くなんて、小学校のころ以来三十数年ぶりになるだろうか。
先夜、スティーブン・スピルバーグ監督「シンドラーのリスト」の一般試写会でのこと。第二次大戦下のポーランドでヘドイツのナチスの一党員、シ一ンドラーがたった一人の力でアウシュビッツ収容所に送られるユダヤ人千人以上を救った実話を基にした作品だ。
「E.T.」のようなファンタジーも「インディ・ジョーンズ」シリーズのような冒険活劇も「ジュラシック・パーク」のような特撮もない。モノクロフィルムで歴史上での出来事を切々と描く。映画化権を取得して十年。「このテーマに対して当時の私では未熟すぎた」とスピルバーグは自らの血筋をさらし、「ユダヤ系であることが、自分の財産と思える日が来るとは夢にも思わなかった」といっている。
「宇宙」よりも「恐竜」よりも、最も身近に思える「自分」が意外と一番遠いのかもしれない。新聞記者になってぼくはいつしか「自分」から遠ざかってしまったかな。
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