〇掲載年月日 2002年12月08日
西論風発:技術者教育 失敗から学ぶ楽しさを=池田知隆・論説委員
「無名のサラリーマン」だった田中耕一さんに10日(日本時間11日未明)、ノーベル化学賞の金メダルが授与される。NHK番組「プロジェクトX―挑戦者たち」では、これまで裏方にいた技術者の仕事に日が当てられている。科学技術立国を支える技術者たちがやっと正当に評価されるようになった。
ここ数日、NHKテレビで深夜に放映されたロボコン地方大会の模様を楽しんだ(全国大会は20日放映)。ロボコンとは、「アイデア対決・ロボットコンテスト」。全国の高専(5年制の高等専門学校)の学生たちが、既成概念にとらわれず、自らの頭と手でロボットを作り、その発想力と独創力を競う催しだ。15年目の今年のテーマは「プロジェクト BOX」だった。
ゲームに勝ったり負けたりしながら、学生たちは喜びの雄叫(おたけ)びをあげたり、泣きじゃくっていた。「勝ったマシンには力がある。負けたマシンには夢がある!」。応援しているうちに、ほんの一時期、技術者への夢を描き、高専を卒業した私の体にも旋盤実習や電気実験で苦闘した楽しさがよみがえってきた。
ロボコンには、喜怒哀楽があるという。ここには、懸命に物作りに挑むときに流す汗や涙がある。自分の頭で考え、自分の手で作ったもので遊ぶ、という当たり前のことが、観客にも深い感動を呼び起こしている。
だが、そののびやかな発想、独創性をどのように育てていけばいいのだろうか。新学習指導要領の実施に伴って「学力低下」への不安が高まっている。だが、もっと心配なのは「学習意欲の低下」のほうではないか。野原で夢中で遊んだ体験、創造する楽しみ、それは子供にも日本社会にも大切な宝物なのだ。
中国などアジア各国の台頭で、日本国内の製造業が地盤沈下で苦しんでいる。理工系学部の卒業生の就職先は、首位が製造業からサービス業に転じた。日本の技術の空洞化現象も指摘されているが、ロボコンを見る限りまだまだ希望はある。
田中さんは「小学校時代の先生が自由に発想することを尊重してくれた」と語り、受賞対象の発見も失敗の産物だ。子供たちの「理科離れ」を嘆くより、無味乾燥な理科教育を充実させてほしい。理科が得意な先生は意外と少ないのが現実だ。
IT(情報技術)不況で多くの技術者がリストラにさらされている。その人たちをできる限り学校で受け止めて、理科教育に活躍してもらう手立てはないものだろうか。学校で今、失敗することの大切さと苦さを学ぶ場があってもいいはずだ。
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