〇父の死(1998年02月16日)
「お父さんも見ててくれると思って滑りました」。冬季五輪で日本女性初の金メダリストになった里谷多英さんは、会見でそう語っていた。スピードスケートで日本初の金メダリスト、清水宏保さんもまた亡き父に受賞の喜びを報告していた。2人の「栄光」の背後になぜか、「早死にした父」がいた。
「運動選手の必須(ひっす)条件は、まず両親が離婚しているか、片親であること」という作家、虫明亜呂無さんのスポーツ人生論をふと思い出した。「東京五輪のころの水泳の女子選手の中で、両親が健在なのは木原光知子さんぐらい。あとはみんな、親や家庭のことで苦労していた。そうでないと、あのトレーニングの辛(つら)さにはついていけない」
さらに女性選手の場合、指導者に対して「愛する人はただ一人、この人のために」心中するぐらいの覚悟がいる、というのである。
そんなスポーツ“道行き”論を私に個人授業してくれた虫明さんが、天国から「いまも、そうかな」とささやく声が聞こえる。
しかし、その2人の金メダリストの笑顔は“辛さ”を感じさせない。ただ「父性復権」論がにぎやかな今日、父は死を通してこそ鮮明に復活することを伝えているようだ。
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