〇旧友(1998年03月27日)
「いま、なんばしよっとね!」。28年ぶりに会った中学時代の旧友、I君に聞くと、「タイル舗装の仕事をしとる」と懐かしい九州なまりの声が返ってきた。小柄だが、握手したその手はグローブのような大きさだった。
九州・筑豊炭鉱の落盤事故で父を失ったI君は、炭鉱マンの叔父さんに連れられて私の中学校に転校してきた。3年の秋から卒業までのわずかな時を共有した仲だが、忘れられない友人だ。集団就職列車で名古屋の鉄鋼所に向かった彼の姿が、鮮明に蘇(よみがえ)ってきた。東京五輪が行われた年の春だった。
「もう少し仕事の手をぬいたら、といわれても、わしゃできないんだ。おかげで、仕事が途切れることはなか」。すっかり職人になりきっていたI君はいま、妻と長男と一緒に仕事ができることを喜んでいた。「遊歩道が完成した時、これはわしがやったんだと思うと、うれしいもんだよ」
春、4月。新聞記者になって25年、ずっと仕事してきた関西の地を離れることになった。その前に「人生」や「社会」への目を開いてくれたI君に会いたくなって、大阪にいた彼を捜し当てた。静かに酒を飲み交わし、元気のもとをたくさんもらった。