2005年6月24日金曜日

〇単純で不思議なこと(2005年06月04日)

 〇単純で不思議なこと(2005年06月04日) 


 「単純だけど、やっぱり不思議だ。どう考えたらいいの?」。友人からそんなメールが届いた。

 なんでもある報告書が完成したので、関係者に約220部を配ることにした。最寄りの郵便局に相談したら、「持ち込みで、1部340円」と言われた。「数が多いから取りに来て」と交渉すると、集荷に来ることになった。

 ふと佐川急便のメール便を思い出し、交渉すると「1部75円です」との返事。「どうやって配達するの?」と尋ねると、「うち(佐川)で集荷して郵便局に持ち込み、配達してもらいます」。同じものを郵便局員が配達しても、料金は4分の1以下だった。

 日本郵政公社が大口荷主と契約して超安値で配達していることは知っていた。だが、私自身、生活感覚でピンと受け止めていなかった。「こんなアホな話、知ってる?」と周りに聞くと、「経費を節減するつもりなら、知ってて当然ですよ」といわれてしまった。

 だが、郵便局は本当にこれでいいの? 郵政民営化法案が国会で審議中だが、素朴な疑問からもう一度、考えたい。


2005年5月9日月曜日

〇女神(2005年05月09日)

 〇女神(2005年05月09日) 

 

 どうして絵を買おうという気になったのだろうか。これまでたくさんの展覧会に通ったが、絵を買うのは初めてだ。

 大型連休中、大阪市西区で開かれた神戸の画家、石井一男さんの展覧会「女神たち」。会場の天音堂ギャラリーはマンション6階の一室だ。靴を脱いで上がり、居間のような空間で、じっくりと絵に向き合ったせいだろうか。

 石井さんは寡黙で、暮らしぶりは質素だ。92年秋、49歳で開いた最初の個展では「絵を見てもらえるだけでうれしい」と売れた分をそっくり寄付しようとしたほどだ。当初、絵に署名を入れず、世に埋もれるのを当然視していたこの画家の思いにも胸を突かれた。

 なぜか不思議な巡りあわせも感じた。石井さんの父はフィリピンで戦死。天音堂の山口平明さんの父は毎日新聞記者で、広島支局で原爆にあって死んだ。戦後60年、つつましく暮らしてきた2人の遺児を女神の絵が結びつけた。

 黄金週間が終わり、手元に1枚の絵が残った。その野仏のような女神像を見ていると、うれしくてたまらなくなった。


2005年4月2日土曜日

〇花明かりの家(2005年04月02日)

 


〇花明かりの家(2005年04月02日) 


 「流転人生も、これで終わりかなと」。春先、随筆家の岡部伊都子さん(82)から届いたはがきにそうあった。30年近く住んだ京都・賀茂川のほとりの家からJR京都駅近くのマンションに移ったそうだ。「ここには甥(おい)一家が住み、何かあれば、助けてもらえます」

 岡部さんは、戦争や病気、仕事で大阪、神戸など15回近く転々としてきた。だが、築80年以上という賀茂川近くの民家にはいかにも岡部さんらしい風情があった。

 「うちにクーラー、ないんですよ」。夏に訪れると、岡部さんはいつもすまなさそうに言っていた。だが、庭の楓(かえで)や草花、丁寧に使い込まれた家具に囲まれ、とても居心地のいい空間だった。

 思い出の品を整理し、人生の店じまいに備える岡部さんはいう。「今は、すべてにありがとうと言いたい」。戦後60年、日本の美や反戦、差別についてもう十分に語ってきたとも思っている。

 桜が咲き乱れ、闇の中でも見えることを花明かりという。各地から人が集い、時代に小さな灯をともした「花明かりの家」もすでに人手に渡った。


2005年3月13日日曜日

西論風発:大阪市政改革 「外の力」を恐れるな

 


〇掲載年月日 2005年03月13日 

西論風発:大阪市政改革 「外の力」を恐れるな=論説委員・池田知隆 


 ソニーの経営陣が電撃的に刷新され、創業以来初の外国人トップが誕生する。出井伸之会長兼CEO(最高経営責任者)は「私が決断した」と語っているが、会長自らが企業統治のため導入した社外取締役という「外の力」が刷新を主導した、との見方が広がっている。

 社長と対等の立場で経営を論じる社外取締役は、経営者を合理的に監視するシステムとして米国の株主などに歓迎されている。ソニーもまた、日産自動車のカルロス・ゴーン社長のように「外の力」の活用で再生を図ろうとしているようだ。

 これから存続できるかどうかという切実さが企業と自治体とではまるで違うが、その大胆な決断は「外部人材の登用」などで混乱している大阪市政改革との大きな落差を感じさせられる。

 職員厚遇問題に端を発した大阪市の改革をめぐって市側は「大阪市都市経営諮問会議」(座長、本間正明・大阪大大学院教授)の事実上の解散を決めている。「市政改革を本格的に推進するためには、内部だけの体制では無理がある」と中央省庁からの人材登用を強く求める本間氏に対して「中央からの人材起用は、地方分権が進む中で矛盾する」と反発したためだ。

 双方とも改革の必要性はわかっていても、その手法については「同床異夢」だった。

 市は、職員厚遇の批判に応えて新年度予算案で166億円規模の経費削減を示した。だが、それは改革の第一歩にすぎない。「中之島一家」といわれる労使癒着の構造をどこまで改善できるのか、はた目には不安に映る。

 一方、本間氏は、住民当たりの職員数が横浜市の2倍という大阪市の特異な行財政構造などにも深く迫ろうとしている。

 メスをどこまで深く入れるべきなのか。その手術にふさわしい有能な人材がいれば、国とか地方という前に、世界に求めてもいいはずだ。

 大阪には古来、新しいことに挑戦する進取の気風があった。地方自治の主役は納税者としての市民であり、その市民の目にたえる行政こそが求められている。市政改革をめぐるこの混乱を、より品格を備え、世界に開かれた都市として再生する契機としたい。

 

2005年2月13日日曜日

西論風発:食育のススメ “考える力”は食にあり

 〇掲載年月日 2005年02月13日 

西論風発:食育のススメ “考える力”は食にあり=論説委員・池田知隆 

  

 あす14日は、香川県国分寺町立国分寺中学校の「弁当の日」だ。献立から買い出し、調理、弁当詰めのすべてを生徒が行って学校に持参する。親が作った弁当を食べる例はあっても、中学生自らに弁当作りを勧めるのは全国初ではないかという。

 「自分が食べるものを自分一人でも作れるようにしたい」というのが同校長、竹下和男さん(55)の願いだ。4年前、前任の小学校で「弁当の日」を実施し、今年度からは中学校でも3日だけ設けた。

 当然のように「弁当を持って来られない生徒もいる」との声が学校内から出た。竹下さんはいう。「なぜ持参できないのか。それを同級生や担任はどうするのか。それはその子の教育の根本にかかわる現象で、子供からのこんないいサインはない」

 「弁当作りよりも学力向上を」と不安を抱く親にも「ものごとを考え続けるのに必要な体力や意欲の低下がより深刻です。自分の生活が他人にいかに支えられているのか、生徒に気付いてほしい」と訴えた。20学級中14学級が参加し、その日の給食費は返還する。

 「百ます計算」の実践で知られる小学校長、陰山英男さんは、摂取する食品が多い子ほど成績が高い傾向を示すデータを親に見せ、食事に気遣うように頼んでいる。「よく寝て、よく食べるという生活の基本を取り戻すだけで子供は見違えるようになる」と陰山さんも力説する。

 一人で食事する「孤食」や、朝食を食べない「欠食」が増え、子供たちの食生活が乱れている。小泉首相は「食育」の推進を強調し、衆院では「食育基本法案」が継続審議中だ。多くの教育現場で「石橋をさんざんたたいたあげくに渡らない」という「事なかれ主義」が横行する中で、竹下さんの「食育」への挑戦は応援したい。

 「弁当は親が作るほうがずっと楽です。だけど、それを手伝わない不親切さも立派な教育です」。大人が子供にやらせるべきことをやらせていないのではないか、と竹下さんは問いかける。

 子供たちの“自立意識”を育てるためには、大人のほうも生活のは避けられない。


2005年1月9日日曜日

西論風発:大阪市公金乱用 懐徳堂精神を思い起こせ

 〇掲載年月日 2005年01月09日 

西論風発:大阪市公金乱用 懐徳堂精神を思い起こせ=論説委員・池田知隆 

 

 カラ残業やヤミ退職金支給など大阪市の職員への公金乱用が際限なく明るみに出ている。長引く不況で経済的な落ち込みが目立つ大阪で、市職員がこっそりと公金を食いつぶしている実態にあきれ、怒りのもっていき場が見当たらないほどだ。

 大阪は、どうしてこんなに情けない都市になったのか。他方、鳥取県のように県職員の給与カット分を教育に投資している地域もある。自治体職員が身銭を切って自立的な地域社会を模索しているのに比べると、大阪市の姿はあまりにもい。

 東京一極集中が進む中で大阪はここ数十年、都市経営をめぐり右往左往してきた。大阪の「敵」は何も東京ではなく、大阪それ自身の中にある。その構造的な欠陥をしっかりと見るには、過去の歴史をたどるしかない。

 大阪にはかつて、町人自らが倫理的・道徳的素養を高めるため、金を出しあい、英知を養った歴史がある。1724(享保9)年に創設された懐徳堂がそれだ。経済、文化が爛熟(らんじゅく)した元禄期から遠のき、不況のさなかのことだった。武家・官僚社会の江戸とは異なり、町人が自由に学問を愛し、知恵を求め、そこから多彩な人材が育った。

 だが、幕末維新の動乱で1869(明治2)年にその歴史を閉じる。やがて大阪では、学問は空理空論で、実業には結びつかないとばかりに軽視されがちになり、都心から知的拠点が消えた。そんな実利中心のツケが回り、市の中枢部をおのずとマヒさせてきたのかもしれない。

 大阪市はその行政実態のを始めた。まずはそれをガラス張りにして徹底して膿(うみ)を出すことから始めなくてはならない。だが、ほころびを繕うだけでも困る。これから大阪をどうするのか。その目標や方法論、市民からの信頼がなければ、未来もない。その結果、大阪府との合併によってスリム化させる選択があってもいい。

 懐徳堂が生まれた地にふさわしく、市民の自立性と市民的倫理に立った地域文化をいかに実現していくのか。歴史を思い起こし、市民の思いと志を結集した大阪を築く好機にしたい。


2004年11月14日日曜日

西論風発:自殺3万人 防止に寺の力を生かせ

 〇掲載年月日 2004年11月14日 

西論風発:自殺3万人 防止に寺の力を生かせ=論説委員・池田知隆 

  

 「多彩な文化力は人間を生き生きさせる。お寺が変われば、社会も変わるのではないか」

 奈良・東大寺で8日開かれた国際文化フォーラム「シルクロードと仏教文化」の論議を聞き、そんな思いにかられた。

 関西の文化力で日本を活気づけようと文化庁は「関西元気文化圏」事業を展開し、今秋も「文化の多様性」をテーマに掲げ、さまざまな催しを開いている。人類の生存のためには、自然界における生物の多様性と同じように、文化の多様性は欠かせない。東京一極集中ではなく、各地域の多種多様な文化を活性化することで社会は元気になる。

 昨年の自殺者は3万4427人(警察庁調べ)と、6年連続で3万人を超え、過去最悪だった。シルクロードの向こう、イラクの戦争犠牲者が約10万人との推計がでていたが、平和な日本でも自殺者の多さから“心の内戦”状態にあるといわれる。人間が生きていくうえで文化の多様性が欠かせないとなれば、自殺防止の視点からも文化力にもっと目を注ぐべきだろう。

 古都・奈良県の自殺率は低い。都道府県別では、02年は最下位、03年は低い方から3番目だ(厚生労働省人口動態統計)。自殺率の地域差には、高齢化や経済をめぐる要因が複雑にからみ、地域の文化力がそれとどこまで関連があるかははっきりとしない。ただ、お寺の広間に座り、庭を見つめていると、心が和やかになるのは確かだ。

 日本各地には多彩な文化が息づき、関西はその宝庫でもある。今年も「関西文化の日」が設けられ、今月20、21両日を中心に昨年よりも4割多い171の美術館、博物館などが入場無料になる。京都などの古寺では、よく音楽会が開かれるようになったが、文化・芸術を親しむ機会はもっと増やしたい。

 日本にお寺は7万数千あるといわれる。その潜在的な文化力を、住民の文化活動に活用されれば、地域はもっと元気になる。寺も、生死に悩む人の“語らいの場”を設け、自殺防止への具体的な活動をしてほしい。文化力で多くの“いのち”を救うことができるはずだ。