〇ふるさとの力(2006年01月27日)
「このまま1人でいると、マンション9階の自室から飛び降りてしまう」。昨年暮れの深夜、そんな思いにとらわれて大学時代の級友、A君(56)が車を飛ばし、約300キロ離れた郷里に帰った。心臓が高鳴り、「運転中、事故で死んでもいい」と思ったそうだ。
これまでに知るA君からは考えられない行動だった。級友間に衝撃が走り、「誰かAの郷里の精神科医を知らないか」と緊急メールが流れると、「カミさんの症状と似ている。パニック障害ではないか」との返信もあった。
パニック障害は、実際には危機でないのに、脳が幻の危機を感知してパニック発作が起きる病気だそうだ。何のきっかけもなく突然発作が起こるタイプもあるが、適切な治療で治るといわれる。
A君は独身で、詩や美術を愛し、公立美術館学芸員を務めている。「春に早期退職する。それからのことは郷里に戻って考えるよ」と悠々と語っていた矢先のことだった。今、郷里の親族に支えられ、順調に回復していると聞き、安心した。ふるさとには「癒やし」の力がある。