〇バッハの泉(2005年10月28日)
「今やっと、バッハの家の扉の前に立ったところかな」
京都・バッハ・ゾリステンを主宰する福永吉宏さん(49)はしみじみと語る。バッハの教会カンタータ(声楽曲)200曲の全曲演奏に取り組んで18年余、その完結コンサートを来月3日、洛陽教会(京都市上京区)で開く。
その全曲演奏は日本では初めてで、欧州でも極めて珍しいことだ。演奏会場の教会の定員は約200人。たとえ満席になっても、コンサートは赤字だった。それでも福永さんたちは聴衆と一緒にバッハの音楽を楽しんできた。
「バッハは日曜日の礼拝に向けて毎週作曲し、合唱の練習しながらカンタータを作った。うまい歌手や楽器奏者がいつもいたわけではなく、暮らしの中に音楽が息づいていた。地位とか名誉を超え、音楽を愛したバッハの生き方にふれた思いがします」
京都御所近くの教会で、静かに育ててきた「音楽の泉」。「いい仲間にめぐり合い、ここまで続けることができました」と福永さん。この泉を絶やさず、もっと豊かにわかせてほしい。