〇光の粒(1997年03月12日)
「多くは申しません。送った本を読んでください…」。夜、「酒乱党」党首を自称している京都のMさんから珍しく電話があった。
どこかの酒場から酒の勢いを借りてのようだが、その声は真剣で、切実さが漂っていた。
その本は北山喜久子著「光の粒になって―お母さんの遺言」(創栄出版刊、星雲社発売、1854円)。北山さんは1994年11月、みぞおちのあたりがピリピリするので病院で検査を受けると、大腸にがんがあり、肝臓に転移していた。病気とは全く無縁で働き続けてきただけに、まさに青天の霹靂。それから昨年2月に44歳で亡くなるまで書きつづった日記だ。
2段組みで、420ページ。病院でのつきあい、染織の職場でのこと、自らたどってきた道、夫や3人の子への思いを語り、そのあふれんばかりの筆力に感嘆した。死に近づいて、死を真正面から見つめていると、あらゆるものが光って見えてくるというが、こうまで鮮明に見え、一気に描けるのか、と。
かつて北山さんといっしょに部落解放運動を担ったMさんにはひときわ深く心に刻まれる記録だ。死にゆく人のまなざしは「光の粒」として生者の暮らしの姿を照らしだす。