〇第3の兵士(1997年01月14日)
「ペルーで国際赤十字の仕事が注目されています」との手紙を添えて、大阪府元教育長で日赤参与、桝居孝さん(70)から本が届いた。「ボランティアからの出発」。人生折々の文章をまとめた本で、次のような一節があった。
15年前の春、30年に及ぶ役人生活を終え、日赤大阪府支部事務局長になった。府庁の先輩に「そんな、みっともない」といわれ、世間的評価の低さを実感したが、明治生まれの母親は一番喜んだ――と。学生時代にセツルメント活動をし、児童文学に造詣の深い桝居さんには幸せなポストだった。
原爆後の診療活動で「広島の恩人」ともいわれる国際赤十字のマルセル・ジュノー博士の墓碑銘に「第3の兵士」とある。第1、第2の兵士は敵、味方に分かれて戦うが、第3の兵士は人道のために戦うとの意味だ。日本でもかつて大正デモクラシーを背景に「少年赤十字団」があり、国際赤十字は太平洋戦争下の日本でも活動していた。
70歳の書生として「出発」と題した本には誠実な人柄がそのまま刻まれている。照れ屋で、接待が苦手そうだった公務員時代の顔が浮かび、いま「第3の兵士」、そして「公」とはなにか、考えさせられた。