〇掲載年月日 2004年10月03日
西論風発:科学教育 子供の五感をはぐくもう=論説委員・池田知隆
小学生の4割が「太陽が地球の周りを回っている」と思い、3割が太陽の沈む方向が答えられない。そんな国立天文台の調査結果が話題になっている。
「宇宙時代にそれでいいの」と憂う声もあるが、小学校の授業で地動説を教えていないのだから、それも当然かなと思う。むしろ、子供たちの生活環境がますます天動説のようになっているのが心配だ。手元のパソコンで世界の情報を入手するうちに、世界が自分中心に回っていると錯覚しないだろうか、と。
話は飛ぶが、「インターネットコオロギ」というのがいる。パソコンの画面で鳴くコオロギのことではない。透明なケースの中で仲間と隔離され、触覚以外の視覚や聴覚の情報を与えられて育ったコオロギのことだ。
長年、コオロギの生態を研究している金沢工大の長尾隆司教授によると、隔離飼育したコオロギは、集団生活で飼育したそれよりも攻撃性が激しい。隔離の程度で差があるが、中でも最も凶暴化するものをインターネットコオロギと名付けている。
通常、コオロギのオス同士の戦いはどちらかが逃げれば、そこで終了する。だが、このインターネットコオロギは相手が逃げようと傷つこうと1時間にも及ぶ攻撃を続け、死に至らしめる。通常ではありえない、メスへの攻撃も仕掛ける。隔離飼育が本能のプログラムを狂わせている可能性もあるそうだ。
情報社会の子育てを考える上で示唆に富む話だ。最近、子供をめぐる問題が多発するのはなぜなのか。子供がおかしいのか、生活環境が変なのか。
だれしも日々生きている生活実感から離れて、自分の足元を客観視するのは難しい。「それでも地球は動く」というコペルニクスやガリレオのような科学的な目で見れば、子供(太陽)が動いているのではなく、生活環境(地球)が動いている、ともいえる。子育て観を今一度、天動説から地動説に転回し、より科学的に考えるときだ。
先の調査結果は、ゆっくりと星空を見つめ、身の回りの現象に「なぜだろう」と子供たちと語り合うことの大切さを問いかけている。子供たちの五感をはぐくむ環境を作りたい。