2002年9月14日土曜日

西論風発:スローライフ 「粋」の精神を見直そう

 


〇掲載年月日 2002年09月14日 

 西論風発:スローライフ 「粋」の精神を見直そう=池田知隆・論説委員 

  

  長引く不況、雇用不安の中で、「豊かさ」をめぐる日本人の意識は少しずつ変容している。その一端は、スピードよりも、暮らしのゆとりや質を追求する「スローライフ」という言葉の広がりにも見てとれる。

 それを街づくりの柱にすえる自治体も現れた。今年1月、静岡県掛川市は全国初の「スローライフシティ」を宣言した。11月をスローライフ月間として多彩なイベントを展開し、全国的な社会運動にするために「スローライフのまち連合」の結成を目指している。

 スローライフは、ハンバーガーなどのファストフードのように世界的な規模で拡大する食の均一化に対し、地域の伝統的な食材をゆっくりと味わおうというスローフードの思想に由来する。これからの暮らしのあり方を見つめ、新しい社会を考えるヒントを「スロー」という言葉に見いだそうというのだ。

 掛川市の宣言には、スローエデュケーション(生涯学習、総合学習、ゆとり)の言葉もあり、79年に全国に先駆けて宣言した「生涯学習都市」の延長線上に位置づけているようだ。スローペース(自動車文明から歩行文化へ)、スローエイジング(美しく老いる、寝たきりゼロ)……と、地域づくりの柱が並んでいる。

 岐阜市も8月、「日本一元気な県都づくり事業策定方針」を発表した。車社会脱却を目指した「スローライフな都市づくり」を念頭に、歩く文化の創出、環境に配慮した施策――などを掲げている。

 これからの日本の社会では、かつてのような高度経済成長はもはや望めない。少子高齢化が進む中、明確に地域づくりのイメージを打ち出している両市の姿勢に共感を覚える。

 江戸中期には、農業生産が限界に達したため約100年間、人口が減少し、当時の環境に見合った“足るを知る”社会が形成されたという。江戸後期になると、「粋(いき)」という美意識が広がった。欲望のままになるのは「野暮(やぼ)」だとして、よりカッコよく生きようという心意気だ。

 南アフリカで先日開かれた「環境・開発サミット」の論議を見ても、持続可能な社会の行方は、何よりも生活を変えていく市民の力量にかかっている。「もっと、もっと」と欲望を満たそうとするより、ちょっと足りない状態でいかにバランスを保っていくかが問われている。

 「食」は「人を良くする」と書くではないか。そんなふうに食や暮らしの質を見つめ、「粋」の精神をながら魅力的な地域社会を考えたい。