〇掲載年月日 2002年05月04日
西論風発:心の健康 冒険教育のススメ=池田知隆・論説委員
未知の世界へ勇気をもって一歩を踏み出したとき、一回り大きな自分に出会える。冒険は、生き生きとした自由な自分の心を見つめ、他人の温かい情けに触れる旅でもある。そのような体験を教育の場で生かそうという「冒険教育」が今、教育関係者の注目を集めている。
「いらいらしたり、むしゃくしゃしたりすることが日常的によくある」子は約2割、と「国民の健康・スポーツに関する調査」(98年)にある。日の出や星空を見たことがない子が増え、外遊びの減少でコミュニケーション能力も低下している。人工的な環境に慣れ、体温調節も苦手だそうだ。
そんな現代っ子の心身の変化を踏まえ、今春から導入された新学習指導要領で、小学校の保健の時間に「心の健康」の項目が加わった。対人関係の悩みや子供たちの不安に向き合いながら、社会性をはぐくもう、というのだ。だが、具体的にどう教育すればいいのか、戸惑っている学校も多い。
「遊びも大事な教育だと理解してほしい」と、冒険教育の指導者、林寿夫さんは強調する。「授業中、質問することも、立派な冒険です。それまでの自分の評価がゼロになるというリスクにも挑戦するのですから。こんな『心の冒険』は、自然の中だけでなく、日常生活でいくらでも体験できます」
冒険教育は、多様なゲームを通して、他者を信じて自分の命を預け、助け合うことのすばらしさを体験するプログラムだ。70年ごろ、集団カウンセリングの研究成果を取り入れ、米国の教師たちが始めた。
例えば、仲間が支える何本かの棒の上を歩いて競う「人間はしご」では、互いを信頼することの大切さを学び、心を開くように工夫されている。そんなゲームの数は300を超える。
宮城県は00年度から指定校で実施し、滋賀、広島、高知各県でも導入に意欲的だ。
一人遊びのゲームが広がり、子供たちが直接、他者と向き合う機会が激減した。携帯電話の普及で、心を閉ざしてうわべだけの人間関係をもつ傾向が強い。だけど、都市化に伴って、人間としての生活感覚「五感」を喪失してはいないのだろうか。
教育とは、白紙の子供に知識を与えることだと思いがちだが、子供が持っているものを引き出すことでもある。そう思えば、「生きる力」をはぐくむ精神的な“仕掛け”として、冒険をもっとてもいい。
明日は「こどもの日」。子供たちとのつきあい方を見つめ直す日にしてはいかが。