〇掲載年月日 2002年04月07日
西論風発:新学習指導要領 “立体的”な国語教育を=論説委員・池田知隆
「情けは人のためならず」の意味が、日本人の半分に誤解されている――。文化庁の「国語世論調査」でこんな結果がでた。字面にとらわれると、誰でも誤解しがちだから、さして驚くことではないかもしれない。しかし、正確かつ美しい言葉の継承は、次の世代への重要な責任の一つであることに違いない。
4月、新しい学習指導要領が導入された。学習時間数や内容の大幅削減で、学力低下への不安の声が高まっている。教育改革の目玉の「総合学習」も、どのように取り組んでいいのか、戸惑っている学校がまだ多い。
だが、迷ったら、「読み書きそろばん」という学習の基本に戻ることだ。学力低下を心配するあまり、従来のような平板な詰め込みの授業を復活させてもだめだ。頭だけではなく、身体感覚を生かした“立体的”な学習を工夫するべきではないか。
ベストセラー「声に出して読みたい日本語」の著者、斎藤孝・明治大助教授は「日本語の名文を暗唱することで、“強いあご”を育てよう」と提唱している。「コメント力、段取り力、まねる力。学習では、この三つの力が大事」だそうだ。
公立学校では珍しい演劇科のある兵庫県立宝塚北高の卒業文集を読むと、多くの生徒が「自分を好きになった。生きていることが楽しく思える」と語っている。自分を発、心を開いていくドラマが、そこには鮮やかに描かれている。
「3年間で心の贅(ぜい)肉が落ちた」と語る卒業生もいた。「本物の人間関係がつかめた。不器用でも、まっすぐ素直に生きたいという自分の道が分かった」
ここでは、職業的な演劇人や俳優を養成するわけではない。発声や日本語の語り方、呼吸法など身体表現の基礎を学び、美しい動作や表現力を身に着け、人間の理解を深めるのが目的だ。さまざまな「遊び」を取り入れ、音楽と体育を使った“立体的な国語教育”を柱にしている。感情表現の技術を身に着ける演劇の教育的な力をたい。
今年2月、中央教育審議会が「新しい時代における教養教育」についての答申で、「国語教育や読書指導の重視」を打ち出した。文化審議会でも「これからの時代に求められる国語力」について審議中だ。
21世紀は、知識や情報が社会を動かす「知識社会」といわれる。膨大な情報の海で生きていくには、「基本のき」としての国語力の養成が重要だ。
「情けは自分のためになる」と、実感しながら学べる場が大切だ。言葉に生気を吹き込む教育こそ今、求められている。